Vol.8 満員御礼!学びと笑顔に包まれた「LIFE with BRAND」第一弾【後編】
不動産屋目線が発信するウェブマガジンです。銀座を中心とした建物の話、外国人の方にもおすすめのマニアックな観光地情報。社長や社員のコンテンツは、私たちが目指す会社の未来をご覧いただけます。
CEO 三田正明が⾏く!
クリエイティブ修⾏の旅
昨今ビジネスにもアート思考が重要! と言われるようになりました。銀座の不動産屋の自分たちにも新規事業、問題解決などで、自由な発想⼒が必要とされます。社⻑の私も発想⼒を磨きクリエイティブな⼈になるために、普段からさまざまな⼈に会い、チャレンジを絶やさないようにしています。この挑戦をアートセンスを磨くための“クリエイティブ修⾏”と銘打ち、WEB マガジンでレポートしたいと思います。ものづくりのワークショップや最新のオシャレスポット、スポーツなどなど社⻑三田正明の挑戦からアートなヒントがお届けできたらと思っています。
株式会社東京中央建物は、SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」の実現に向け、ビジネスパーソン向けセミナーシリーズ「LIFE with BRAND」を2025年より開始。「住まい」と「ブランド」をテーマに、2030年まで毎年開催予定の社会貢献活動です。第1弾は2025年10月9日、元デロンギ・ジャパン社長の杉本敦男氏を招き、GINZA SIX内グラン銀座で開催。「カンブリア宮殿」出演でも話題となった同氏から、"ちょい高" でも選ばれる理由を創るブランド戦略についてご自身の体験談をお話しいただきました。本コラムでは当日の様子をレポートします。
目次
- 公開型社員研修LIFE with BRANDキックオフ 価格を下げずに価値を上げるには?
- ちょい高でも選ばれるのは モノではなく、意味にお金を払っているから
- 元デロンギ社長が語る 「日本流ブランディング」の真髄
- リーダーに強い意志がなければ ブランドはできない
- Better Everydayのビジョンのもと ヒーターからコーヒーに舵を切る
- 自社のキラーコンテンツを見つける もしないなら、つくる
- 利益力強化のために市場調査を行い、ニーズを把握せよ
- ブランディングは 社員一丸となって取り組むもの
- 自身の体験に裏打ちされたリアルな言葉に参加者も集中
- ブランディングのキーワードは価値体験とキラーコンテンツ
- 東京中央建物の価値体験は住まいに意味を灯すこと
公開型社員研修LIFE with BRANDキックオフ 価格を下げずに価値を上げるには?
イベントの幕開けは、吉本芸人宇野けんたろうさんの登場から。宇野さんはフルマラソンで芸能人トップタイムの2時間33分30秒を記録するほか、芸人としてもマラソン実業団選手としても活躍中。ドラマ『陸王』やNHK大河ドラマ『いだてん』では、俊足を活かした役者としても出演しています。そんな宇野さんが会場を温めてくれたところで弊社代表取締役・三田が登壇しました。 "ザギン"の社長らしく、GINZA SIXの会場を選んだという三田は直前に美容院でヘアスタイルも整えてきたそうで気合いもバッチリ。ご両親も呼んでいて「40年ぶりの授業参観のような気持ち」の発言に、満員の会場は和やかな雰囲気に包まれました。 「本イベント "LIFE with BRAND" は、もともと社員研修として企画していましたが、SDGsの観点からも意義があると考え、公開型として開催することにしました。住まいや生活に関わる企業、安売りせずに支持を集めている企業、ファンを生み出している企業の経営者の方々をお招きして、2030年まで続ける予定です」 「いま日本企業は非常に厳しい状況です。原価高騰や円安を受け、脱・安売りは待ったなしの課題です。そんな中、あらゆるビジネスは価格を下げずに価値を上げることが必須だと思いますので、きょうは"ちょい高でも選ばれる理由"をテーマにお話しします。探せば安いものがたくさんあるのに、クルマ、洋服、飲食など、あえて高いものを選ぶことがあります。人は値段だけではなく、その先にある何かで選んでいる。クルマは80万円でも買える新車はあるのに、5000万円以上の新車を選ぶ人がいる。シャツも3000円台で買えるものはあるのに、胸にロゴが入っただけで3万円のものを選ぶ人がいる。コーヒーも100円で飲めるものはあるのに、600円、800円を払う人がいる。では、なぜちょい高でも人は喜んでお金を支払うのか?それは一体、何に対してお金を払っているのでしょうか?」
ちょい高でも選ばれるのは モノではなく、意味にお金を払っているから
「それはそのブランドにストーリー(物語)があるからです。ステータスやユーザーとしての喜び、世界観や開発秘話といった要素も、価格には含まれているかもしれません。それはつまり、モノではなく"意味"にお金を払っている。同じブランドを持つ仲間、いわゆるコミュニティに加わる価値もその一部かもしれません。スターバックスもただコーヒーを飲む場所ではなくお洒落なお客さまが集まる空間いうイメージがあります。だからこそ、ちょい高でもその一員になれるという価値に人はお金を払います」 「僕がちょい高でも買うブランドはラルフローレンで、いま着ているこのジャケットもそうです。トラッドな世界観やデザインが好きですし、客層にも上品さを感じます。ラルフローレンを着ると、自分もそのブランドの一員になれたような気がするんですよね」 「一般的な企業は、"価格+スペック"に2割程度の利益を乗せて売価を決めますが、ブランド戦略的な発想の企業は、そこに"プレミアム"な要素を加えたいだけ加えます。"プレミアム"とはつまり、物語や開発秘話、デザイン、客層やコミュニティ、ステータスといった要素です。人がモノではなく意味にお金を払う理由は、まさにここにあります。そんな前段を踏まえて、きょうは業績の落ち込んでいたデロンギを再成長させた、デロンギ・ジャパン前社長の杉本敦男さんにブランディングについてお話しいただきます」
元デロンギ社長が語る 「日本流ブランディング」の真髄
杉本敦男さんは一橋大学を卒業後、コニカミノルタに20年間勤務。その後、カタリナマーケティングや日本メープルリーフフーズを経て、2010年から2024年までデロンギ・ジャパンの代表取締役社長を務めました。趣味はマラソンとゴルフ、そして自治会活動が好きだそうです。 「ブランディグでは『高い』と言わないことが大切です。その価格には理由がある。お客さまが購入したくなる価値があり、意味があり、ブランドストーリーがある」。そんな前置きのもと、まずは2022年カンプリア宮殿に出演された際のVTR を視聴。番組では、デロンギのショールームの様子や商品の特徴、家でラテアートを楽しむご夫婦の様子などが紹介され、社長就任時の3倍の売上を達成したという杉本さんの実績も取り上げられていました。 「ブランドとは名前やロゴのことではなく、提供する商品・サービス価値の総合体です。価格競争やスペック競争ではダメで、それ以外の価値を付加していくことが求められます。またブランドは生き物なので、環境の変化とともに変わる必要があります。どんなに優れたブランドコンセプトでも、ずっとそのままでは通用しないと思ったほうがいい。きょうはブランドストーリーの構築に必要なものとして、①常に変革にチャレンジする強いリーダーシップ、②事業目的・目標の設定・達成ストーリー、③キラーコンテンツの開発ストーリー、④利益力の強化ストーリー、⑤組織力の強化ストーリーの5つを説明します」
リーダーに強い意志がなければ ブランドはできない
「トップに変革していく強い意思があることがすべての始まりです。どの企業も自社ブランドを高めたいとは考えていますが、『絶対に自分がブランドを作ってやる』という強い意思をリーダーが持たなければ、ブランドはできないです。険しい道のりなので朝令暮改なんて当たりだし、社員もそれを理解しなければならない。すぐにできるものではないので、根気と覚悟が求められるんですね。物事をポジティブに捉える姿勢も重要です。例えば認知度が50%だったら、半分にしか知られてないと考えるのではなくて、残り半分を成長のチャンスだと考える」
Better Everydayのビジョンのもと ヒーターからコーヒーに舵を切る
「次に、どのようなブランドにしたいのか徹底的に考えること。ブランドビジョンは何か?どんな会社でありたいのか?どこでどうやって利益を得たいのか?そのために何をしたらいいか?デロンギのブランドビジョンは、わたしが社長に就任した翌年に『Better Everyday』に変わりました。家で過ごす時間をより愉しく、心地よいひとときに変えるというブランドコンセプトを体現する、とても好きな言葉です。ここから製品スペックの訴求ではなくて、生活の本質的な価値を伝えることを特に重視するようになりました。なぜ人は朝コーヒーが飲みたいのか。なぜ暖房器具がほしいのか。そのブランドビジョンを社内外に浸透させるために、打合せのときにはお客さまの前で必ず読む。5分しか時間がなくても、『この間も聞いたよ』と言われても読むんです。ビジョンが伝わらなければ『高いね』と言われてしまうから」 「ちなみに入社した2010年は看板商品だったオイルヒーターは低迷していて、社内の士気も低かったです。取引先の社長にまで『杉本さん、間違えた選択しちゃったね、デロンギはもうおしまいだよ』と言われるほどに...。そこで打ち出した大きな方針が、コーヒーを経営の柱にすることでした。イタリア本社のコーヒーに対する思い入れも強かったので、とにかくコーヒーでNo.1になると決めました。もう1つ大切なのがポジショニングですね。スペックや価格競争ではなく、競合に対して自社をどのように差別化するかは、戦略を立てる最初の段階で考えないといけない。こういうふうに見られたい、という方向に進むことがブランド構築の出発点です」
自社のキラーコンテンツを見つける もしないなら、つくる
「そのためにはブランドを牽引するキラーコンテンツが必要です。もしなければ、つくる。事業戦略の主役になれるもの、シェアNo.1になれるものを見つける。自社には必ず負けないものがあると信じて、それを見つけに行くんですね。そして我慢強く育てていく姿勢が経営者には求められます」 「デロンギはキラーコンテンツを2つ考えました。1つめは全自動コーヒーマシンです。デロンギの全自動コーヒーマシンは、豆を入れて挽くんですね。だからスイッチひとつでわずか1 分足らずで引き立ての味と香りが楽しめる。カフェラテもカプチーノもエスプレッソも選べる。粉を入れるパウダーマシンはミルクメニューはできない。多彩なメニューと本格的な味わいを両立し、日常に豊かな時間をもたらす商品はデロンギしかないから売上高シェアNo.1になれたと思います」 「2つめはマルチダイナミックヒーター(MDH)です。オイルは買うのも面倒だし、重いし、温まるのに時間がかかるので、ヒーティングエレメントで熱をコントロールする技術を開発して、オイルを取ってもらった。暖房で1番シェアが高いエアコンを抜かすことはできないけれども、『エアコンの風が苦手』『乾燥が嫌』という声に着目して、『ゼロ風暖房』というワードで訴求しました。エアコンともオイルヒーターとも電気ヒーターとも違う独自のポジションを取ったことで、価格も高めに設定できました。もうね、できるだけ高くしよう、業界で1番高くしようと。なぜなら業界で1番優れたものだから。結果的にMDHもデロンギの稼ぎ頭になりました」 「製品開発は主にイタリアでやるんですけれども、実際に商品を体験してもらうために、ブランドのタッチポイントを増やす施策などはローカル主導で行いました。あとは迅速な修理対応や保証期間の延長、新商品やイベント情報のお知らせなど、競合が真似できない面倒くさいこともデロンギ・ジャパンは積極的にやりましたね。まだオンライン会議も一般的ではなかったので、ほんとうにしつこく電話して(笑)」
利益力強化のために市場調査を行い、ニーズを把握せよ
「ブランドをつくるには資金がいるので、利益力を向上させることも欠かせません。売上を伸ばし続けて、費用を削減し続けるという当たり前のことを徹底する。しんどいですが、わたしはセグメントNo.1を目標に取り組んでいました。自社の商品やサービスを誰が買っているのか、その人たちはどんな人なのか、そして競合の商品を買うのはどんな人なのかを徹底的に分析する。こうした市場調査を毎年行い、顧客の変化を把握しておくことが、利益力の向上につながります。例えばオイルヒーターのケースでは、リサーチの結果、主に寝室で使われていることが判明したんですね。だからこそ、寝ている間も乾燥しない『お休み暖房』に訴求を絞ることができました。当時は予算もなかったのでCMも作れないし、店頭の整備が精一杯だったのですが、羊のキャラクターを使ったPRで売上はV字回復しました」
元デロンギ社長が語る真のブランド戦略
第一弾のゲストは、テレビ東京「カンブリア宮殿」出演でも大きな反響を呼んだ元デロンギ・ジャパン社長の杉本敦男氏です。杉本氏は、イタリアの美しいデザインを損なうことなく、日本の住環境や生活習慣にフィットする商品開発を実現し、デロンギを日本市場で躍進させた名経営者。基調講演では「"高いけど欲しい"を生む日本流ブランディング」をテーマに、価格競争ではなく価値創造で選ばれる理由づくりについて語っていただきました。続いて私から当社の取り組み「住まいに"意味"を灯す」について事例を紹介し、最後は特別対談で「ブランド経営と暮らしの共創」について深掘り。吉本興業の宇野けんたろう氏の明るく元気なサポートもあり、会場は終始和やかな雰囲気に包まれました。
ブランディングは 社員一丸となって取り組むもの
「そしてブランディングは社員の理解が前提で、外に向けて発信するのと同じくらいの努力で、社内への啓蒙を行うことが求められます。自分たちのBetter Everydayとは何か。例えば物流に関わるスタッフだったら、自分たちがお客さまに『物流のBetter everydayとは何か』を自分たちで具体化する。その考えが、会社のビジョンと一致していることが大切です。ブランディングには一貫性が必要なので、社員一丸となることは絶対に必要で、ここを疎かにするとブランドは育たないし、絵に書いた餅になってしまうので」
自身の体験に裏打ちされたリアルな言葉に参加者も集中
実体験に裏打ちされたブランド再生のストーリーは、とても貴重なもの。参加者も熱心に耳を傾け、限られた時間の質疑応答でもあちこちから手が挙がるほど。会場の関心の高さが伝わってきました。 Q:社長就任は間違いとまで言われていた状況で、何から着手しましたか? A:ショールームがなかったので、会議室を潰してショールームにして、商品を並べることを最初にやりました。それからポップを整理しました。そもそもデロンギが何を売っているかが見えなかったので。 Q:低迷していた売上を挽回させたプロセスをお聞きしたいです A:3月に入社したのですが、売り場がめちゃくちゃだったんですね。なので、まずは店頭を整えることを最優先にしました。暖房器具の準備は6〜7月に始めますが、結果が出るのは10〜11月ごろ。正直、その間は手応えはわからなかったです。同時に社内の統制を進め、ムダな部分を徹底的に削減するなど、できることはすべてやりました。そうしたら10〜11月に売上ダウンが止まったので、まずは良かったなと。 Q:どうやって社内のモチベーションをあげましたか? A:当時、神田のオフィスは3フロアに分かれていて部署が分断されていたので、全員に集まってもらって、いまの会社の状況や目指す方向を自分の言葉で伝えました。すぐに引越しのプロジェクトも立ち上げて、有楽町に本社と待望のショールームを作って、コミュニケーションが生まれる環境を整えていきましたね。あとわたしが考えていることを毎月レターでバンバン出していました。
ブランディングのキーワードは価値体験とキラーコンテンツ
そして最後は再び三田が登壇し、エンディングセミナーを行いました。 「『価値体験』と『キラーコンテンツ』というキーワードが印象に残りました。ブランドには理念と戦略の両方が必要であり、ブランドとは『あり方×やり方』の掛け算で成り立つもの。そのどちらが欠けても成り立たないことを、杉本さんのお話から改めて感じました」 「価値体験とは機能や価格を超えた、心に残る満足体験のことです。つまりモノを通じて得られる感情と物語でないでしょうか?オープニングでもお話ししましたが、人は意味に心を動かされてお金を払います。キラーコンテンツであるコーヒーマシンは、単なるコーヒーの機械ではなく、バリスタ体験を。オイルヒーターは、暖かさという機能でなかく、心地よい眠りを届けている。つまりそれは"豊かで上質な時間"であり、Better Everydayという理念を体現している。デロンギがちょい高でも選ばれる理由もまさにここにあると思います」 「キラーコンテンツは、会社を象徴する圧倒的な強みであり、ブランドの顔です。それがあることで、そのブランドの"らしさ"が伝わり、人々の記憶に残りやすくなり信頼も高まります。すべての商品を均等に磨くのではなく、看板商品に注力することも、ブランドづくりにおいて大切だと実感しました」
東京中央建物の価値体験は 住まいに意味を灯すこと
「価値体験の事例で考えると、飲食店では味の良さももちろん大事ですが大切な人と特別な時間を過ごすことも素敵な価値体験です。製造業であれば、製品の裏にある信頼と誇り。IT企業であれば、技術を通して人の時間と感情を豊かにすることかもしれません。では、東京中央建物の価値体験は何でしょうか?それは、お客さまの未来のライフステージをともに描くこと。資産や将来の安心を一緒に考えること。アイデアを提案すること。幸せの拠点をつくること。その人だけの唯一無二を追求すること。住む以上の価値を持って人生を広げていくこと。つまり、"住まいに意味を灯す"こと。それをわたしたちの掲げる価値体験として、本日は締めくくりたいと思います」 大きな拍手とともに終了したデロンギナイト。セミナーの終わりには、杉本さんに挨拶や写真撮影をする方の長蛇の列ができ、満足度の高さが伺えました。また、デロンギといえばイタリアということで、会場にはイタリア産ベルガモットの香りが漂い、イタリアンロックバンド「マネスキン」のBGMが流れる演出からも、ブランディングのエッセンスを感じていただけたのではないでしょうか。お越しいただいたみなさま、改めましてありがとうございました!
東京中央建物二代目社長。2022年ホームページリニューアルの際に、自社メディアとしてホームページ内にWEBマガジン『CLASS ROOM』を立ち上げ、編集長に就任。勤務地であるよく知る銀座や本業で関わる建物を掘り下げることが、価値ある情報になるのではとWEBマガジンを運営している。社長就任にあたって取り組んだ会社と社長個人のブランディングを通して、アートやデザイン、スポーツ等の魅力を知る。趣味はランニング・旅行・ワークアウト・カフェ巡りなど。
現在、no+eでブログを執筆中。
ギンザの不動産会社の社長がマイノリティの立場で考える「誰ひとり取り残さない賃貸」
https://note.com/mitamasaaki/
